幾霜::残日録::2009/02/09 (月)

 

移籍先を探しています。系統樹推定法やメタバーコーディング法などに詳しい研究者を探している方がおられましたらご一報下さい。

2009/02/09 (月)

[Software] ATOK 2009の英文入力支援機能ATOK4Eを英語キーボードで使うには - 18:20:39

 標準では英語入力モードへの切り替えは「英数」キーに割り当てられています。英語キーボードにはそのキーはありませんので、Shift+アルファベットによって切り替えられます。しかしこれは頭文字を小文字にしたい場合に不便なので、プロパティからキーカスタマイズしてCtrl+Eなどに割り当てることで手動での切り替えが可能になります。

 ATOK4Eによる入力支援はまだ使い込んでいないのですが、今のところ、既に英文を書き慣れている人にとっては鬱陶しさ(入力を「確定」するためにEnterを打つ必要がある)の方が利便性より大きいのではないかという気がしています。もう少し使い込んでからまた改めて触れたいと思いますが、常時利用するには一々Enterを打つのは面倒だし、必要なときに起動するには一旦日本語入力を有効にしてから英語入力モードに変更しなくてはならないので手数がかかりすぎる気がします。日本語入力OFF状態で、英語を入力する度(3文字以上とか5文字以上に制限した方が良いかも)に自動で候補を表示し、必要なときだけ候補を選択して確定するようにして、必要無いときはそのまま入力が続けられる、という実装が良いですね。そういう風に出来れば使うと思います。

[Science] 空間自己相関は妥当か - 06:07:01

 近年、MCMCなどで空間自己相関を考慮したモデルによる解析が普及しつつある(WinBUGSのcar.normal()など)。某北の方のとある先生が生態学会誌に解説記事をお書きになられているそうなので、これ自体の説明はいずれ出版されるそれを参照していただきたい。

 さて、その北の先生の今も公開されている解説では、「欠測などに強い=データ欠けがあっても推定値の信頼区間が爆発しない」というメリットが述べられている。しかし、これは本当にメリットと言えるのか、私は疑問である。すなわち、データ欠けがある以上、欠けている部分の信頼区間が爆発するのはむしろあるべきことではないかということである。

 これは、近接地点間ではデータは似ているはずである、という仮定そのものに対する疑義を投げかける問題である。先日記したように、系統樹の分岐年代推定では、隣接枝間の速度の自己相関を仮定した方法が主流となっている。分岐年代推定の場合、親枝の進化速度が子枝の進化速度と関連があると仮定するのは大きな問題は無いだろうし、親枝を経由せずに孫枝に影響が及ぶことは考えられない。しかし、空間上の各地点間では、「飛び石」的な遠隔地との相関がありえないわけではない。例えば、湖沼の生物相には、地理的な距離よりも鳥の渡りルートになっているかどうかといったことが影響しているかもしれない。そのような場合に、渡りルートのことが分かっていればモデルに反映すればよいが、分かっていない場合に空間自己相関を仮定してしまうと、欠測地点付近で誤った推定値が高い精度(狭い信頼区間)で得られてしまう可能性が無視できない場合もあるだろう。

 さて、さきほど分岐年代推定で「親枝の進化速度が子枝の進化速度と関連があると仮定するのは大きな問題は無いだろう」と述べた。もちろん、樹形が100%の信頼性を持っているのならそれでいいかもしれない。しかしそのような系統樹はほとんど無い。枝間の親子関係に不確実性がある場合に樹形を固定して親子間の速度自己相関を仮定することは不確実性を過小評価することにつながるだろう。これに対する対策は二つある。一つは速度自己相関を仮定しないことである。そしてもう一つは樹形を仮定しない=樹形と分岐年代の同時推定を行うことである。この二つをBEASTというソフトウェアが取り入れている。しかし、個人的には、樹形を仮定しないだけで十分で、速度自己相関は仮定してよいのではないかと考えているが、生活史の変化によって急激に変化が起こる場合もあり得るので、やはり仮定は置かないほうがよいかもしれない。この辺りは検証の必要があるだろう。

 このエントリで言いたいのは、妥当な仮定を置くことで推定が改善されることは確かにあるだろうが、同時にその仮定を置いていることを把握し、その仮定に対する疑いを排除してはいけない、ということである。もしもその仮定を除去した推定結果で同じことが言えるのであれば仮定を置く必要など無いし、仮定を置いた結果とそうでない結果で言えることに差があるのなら、その仮定を正当化できる事実が必要だということである。また、仮定そのものの検証ができるのならそうすべきだ、ということでもある。

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