2004/09/11 (土)
◆ 環境危機はウソか本当か - 13:01:19
「いんちき」心理学研究所で「「二酸化炭素は悪の大魔王」という神話」なる記事が出ています。環境危機を煽る人達が金儲けのために大げさに言っているのは事実だと思いますが、逆に、煽ってはいけないと言っている人達も同様だと思います。この記事は「煽ってはいけない」と煽りすぎなのでいくつか反論をしておきます。
南極の氷は溶けない
大陸上の氷床はほとんど溶けていないと思いますが海氷は溶けていっています。それで海水面が上昇することはなくても、アイスアルジーが減少してそれを食べるナンキョクオキアミが減少してそれを食べる以下略。
また、亜寒帯〜温帯域の氷河・凍土が減少しています。と言っても海面が急激に上昇したりはしないでしょうが、永久凍土が溶けてその中に固定されていた落ち葉の分解が進行し大量の二酸化炭素が放出されつつあるという話があります。これは元記事中でも触れられている「冬季気温の温暖化」の影響が大きいと考えられています。また、この影響で凍土から夏に溶け出す水分に依存している植物が生育しなくなったり、水が蒸発して塩濃度が高くなり不毛の土地と化すという話もあります。何も温暖化がもたらすのは水没だけではありません。南極の氷が溶けて海面が上昇するという話はトンデモかもしれませんが、極周辺部などの氷が溶け出して生じる波及効果には好ましくないものも多く、不確定性も大きいでしょう。
北極の氷が溶けても海面は上昇しない
海水準が上昇しなくても、海洋の深層循環が停止して沈降していった養分が表層へ供給されなくなり海洋の一時生産が落ち込み魚が減少します。また、同様に海洋が運ぶ熱の循環も激変することになり大変なことになるでしょう。
二酸化炭素は温暖化に貢献しているか
貢献しています。ですが、元記事の通り、「二酸化炭素濃度が上昇して温暖化」か「温暖化したから二酸化炭素濃度上昇」かははっきりしません。つまり、どちらが原因でどちらが結果なのかは不明です。しかしながら南極氷床コア中の古大気分析の結果から、氷期中には二酸化炭素、メタン共に濃度が低下することが分かっています。元記事ではそのデータの信頼性が否定されたとされていますが、信頼性が改善されたのか、それともその否定が否定されたのか経緯は知りませんが現在でも普通に信頼できるデータとして扱われています。また、海底堆積物コア中の生物(有孔虫)の石灰殻に含まれる炭素同位対比の分析結果からもこれは支持されています。
ところで、「産業革命以降人為的に排出された温室効果ガスによる地球温暖化への直接的寄与度」と「温室効果を生みしている気体の割合」(ミスタイプは元記事)の円グラフを並べるのはインチキです。ここで述べられている話をするために前者のグラフと対比すべきは「全温室効果ガスによる地球温暖化への直接的寄与度」です。というのも、温室効果ガスごとに体積当たりの温室効果が異なる上、水蒸気は太陽光を反射して熱を地球外へ出してしまうという性質も持っている特殊な温室効果ガスなので、それを差し引く必要があるからです。
とは言え、水蒸気が非常に大きな温室効果をもたらしているのは事実です。しかし、だからと言って二酸化炭素など他の温室効果ガスによる影響が小さいかというとそんなことはありません。直接的な気温への影響が小さいとしても(そんなことないですが)、その僅かの気温上昇で水蒸気が増え、海水に溶けていた二酸化炭素が大気に放出され、更に気温上昇以下略、ということにもなりかねません。
二酸化炭素の温室効果は飽和しておりこれ以上にはならない
私は全然知りませんが、本当ですか? 情報源を示していただけると助かります。
二酸化炭素は植物の成長を促進する
半分本当で半分ウソです。ある程度までは成長が促進されますが、限界があります。これは植物の能力の限界と、その他の制限要因(窒素、燐、光など)があるためです。また、陸上植物の成長が促進されても、海洋の一次生産の減少を補填できず、総合的にも一次生産量は減る可能性が高いと思います。
今より暖かかった時代の話
ジュラ紀は今より暖かかったですが、大陸の配置も海流の流れも気候システムも異なる時代の話ですのでそんな時代は比較対象になりません。
今の氷期-間氷期が繰り返す気候システムになって以降、現在ほどの二酸化炭素濃度になったことはありません。氷期は約200ppm、間氷期でも280ppm程度だったのです。しかし現在は360ppmを超えています。今より暖かかった時代は何度もありましたが、今問題にされているのは、地球が太陽から受ける熱エネルギーが減り始める時期にさしかかっているにもかかわらず早いペースで気温が上昇を続けていること、二酸化炭素濃度もかつて無い濃度に達しているということ、この両方が起こっているという異常さです。
海面上昇に国家は対処できるか
先進国はともかく発展途上国はどうするんでしょう? ツバルなどの小さな島国や低地の多いバングラデシュは対処できてますか?
今より気温が高かった時期から10年で気温が10℃下がったのは本当か
ウソです。あの氷床アイスコアの下層では年層の積み重なりが乱れておりそんな高解像度の信頼性はありません。乱れてなくてもそんな信頼性は無いと思いますが。タイムリーなことに、今週のNatureにそんな乱れの無いグリーンランドのアイスコア分析結果が論文として掲載されていますが、最終間氷期から最終氷期への寒冷化は緩やかなものだったことが示されています。
近年の温暖化は自然現象と考えた方が妥当
とは言い切れません。二酸化炭素濃度の異常さとそれと比例して上昇する気温を考えるとまだ予断を許さない状況でしょう。だからと言って完全に否定することもできないとは思います。
寒い季節・地域の気温が上がるのは良いことか
人間が暮らすには良いこともあるかもしれませんが、先述の通りそこに暮らす生物にとっては良くないことが多いです。それは間接的に人間にとっても不利益となるでしょう。自然災害が減るのも、生物にとってはそのような擾乱はむしろあった方が良いので、同様のことが言えます。
全般的に、生物界全体への影響を考えておらず人間の暮らしへの直接的影響しか考えてないとか、一部分の事象だけを取り出してきているなど、問題点の多い文章ですね。地球の気候システムや熱・物質循環システムに関する知識の不足も感じられます。